沖縄から問う日本版排外主義

新垣 毅

あらかき・つよし | 

1971年生まれ、「琉球新報」政治部長)


今年2月は、ある意味、日本の民主主義の在り方を左右する大きな転換点だったと言っても過言ではないだろう。新聞記者になってから21 年、学生時代から民主主義について考える機会が度々あったが、これほど衝撃を覚えたことはなかった。

「あらかじめ事業について継続すると決めていた。安倍晋三首相への報告は逐次行い、了解をいただいていた」

今年3月5日、岩屋毅防衛大臣が衆院予算委員会で発した言葉である。

沖縄ではその9日前の2月24日、名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票が実施され、投票者の72・2%が「反対」の意思表示をしていた。投票率は52・5%と過半数を超えた。岩屋氏は県民投票の結果いかんにかかわらず、事前に工事を続ける方針を安倍首相とともに決めていたと明らかにしたのだ。

安倍首相は県民投票の結果について「真摯(しんし)に受け止める」と述べながらも国会答弁では「県民投票の結果について論評する立場にはない」とも述べた。

これに対し予算委で質問した立憲民主党の福山哲郎幹事長は、政府があらかじめ県民投票の結果を無視していたとして「真摯に受け止めると、論評する立場にないというのは真逆だ」などと追及した。これに首相は「工事を続けるかどうかは岩屋防衛相の判断だ」と述べ、判断の責任を防衛相に転嫁する場面もあった。

沖縄で実施された県民投票は、憲法や法律で保障された、いわば民主主義の実践手段の一つである住民投票だ。有権者が選挙で選んだ政治家に政権や議会を任せる間接民主制度を補う制度だ。通常の選挙では多様な政策を掲げている政治家や政党を選ぶが、住民投票は、ワンイシュー(一つの争点)を巡って、ある事柄の是非などを有権者が選択できる。結果に対する法的拘束力はないものの、住民の選択を為政者がどれだけ尊重できるかが、その地域や国の民主主義の成熟度を測る目安にもなる。それを無視したり「論評する立場にない」としたりするのは、有権者による民主主義の実践を足蹴にすることと等しい。あろうことか、一国の首相や大臣がそれを公言したのである。この態度は、沖縄の民意を否定しているだけではなく、住民投票という民主主義制度の否定でもある。

このことにどれだけのメディアや国民が気付き、問題視する声を上げただろうか。残念ながら、本土では「沖縄の声を聞け」という活動や報道は一部にとどまっている感は否めない。メディアのほとんどは首相はじめ閣僚の方針を問題視しなかった。

もし、何らかの政策を巡る住民投票が東京で実施され、首相ら閣僚がその結果のいかんを問わず「無視」する方針を事前に決めていたことが判明したら、どんなことが起こるだろうか。恐らく政府は方針をなかったことにするなど反発の火消しに躍起になるだろう。

では、なぜ沖縄なら彼らにとって「無視」できるのか。これが本稿のテーマの柱である。本誌編集者より「この国の圧搾空気」をテーマとして原稿を依頼されたが、沖縄と政府、あるいは沖縄の人々と本土の人々との関係は、「空気」では語り尽くせない。なぜなら、憲法や法律で保障された民主主義の正当な手段を行使し、その結果、「反対」多数でも、権力で押さえ付けている圧政が実際に行われているからだ。埋め立て工事は今も続けられている。この事態は「空気」ではなく、紛れもない実態だ。日本の有権者=主権者はそれを直視しなければならない。

それでも「沖縄だから仕方ない」「沖縄を甘やかせるな」「わがまま言うな」という人々が本土には多くいる。それは「空気」と深く関係する。その実態と「空気」はもはや暴力と言っても過言ではない様相を帯びている。

結論的に言えば、いま、米軍基地問題を巡って沖縄に対する本土側の態度には二つの暴力が継続している。一つは、国土面積のわずか0・6%の沖縄に、全国の米軍専用施設の約7割が集中しているという物理的客観的暴力。もう一つは、その事実や辺野古新基地建設「反対」の民意を黙殺するばかりか、「反対」する沖縄の人々を「反日」「テロリスト」などとヘイト言説を浴びせる認識論的主観的暴力だ。

政府は、選挙など民主主義の手法で示されてきた沖縄県民の意思とは真逆な行為を続けながら、「基地負担軽減」「沖縄に寄り添う」などと言い、むしろ本土向けに「辺野古が唯一の選択肢だ。その方針は間違っていない」かのように沖縄に負担を強いている。前者の暴力の担い手として。それをネットなどを通して正当化し、辺野古反対の意思を示す沖縄の人々をおとしめる誹謗中傷を繰り返す人々がいる。それが後者の担い手だ。沖縄にとって「圧搾空気」とは、圧政の実態にプラスアルファで襲いかかっている沖縄ヘイト、そして本土の一般有権者による沖縄の民意黙殺だ。

(以下は本文をお読みください)

 

一覧ページに戻る