参議院議員選挙の結果と野党の将来

佐々木隆爾

ささき・りゅうじ | 

日本近現代史、本誌編集委員


去る七月下旬に参議院議員の選挙が行われた。七月四日公示の二一日投票という日程であった。今回の選挙が明らかにしたのは、野党の将来が明るいという展望である。

今回の選挙の画期性は、まず投票の約二カ月前の五月二九日、野党の五政党と各派が共通政策に合意し、野党共闘の歴史に画期的な前進を刻んだことにある。共通政策は安倍政権に代わる政権の構想の骨子となるもので、その柱の第一は安倍政権の進める九条改憲だけでなく、改憲発議そのものの阻止をうたい、以前には入らなかった辺野古新米軍基地の建設中止と普天間基地の撤去を明記したことである。またこれまでにはなかった消費税増税の中止も入れられた。

第二に、改憲・軍事大国化と新自由主義改革の再起動に対し、それに代わる政治の構想が打ち出された。この中には、事実上の憲法破壊―自衛艦「いずも」の空母への改修や陸上イージスの配備など「防衛予算、防衛装備」の拡充―にも反対し、「国民生活の安全という観点から他の政策の財源に振り向ける」ことが合意された。さらにこの間の米朝会談の進展を踏まえ、東アジアと朝鮮半島の紛争の平和的解決を打ち出したことも見逃すことができない。

安倍政権のもうlつの柱である新自由主義改革に対しても、消費税増税の中止だけでなく、最低賃金一五〇〇円を目指すとし、一日八時間働けば暮らせる賃金を実現し、貧困・格差の解消をうたった。まさにこれはアベノミックスへの対案として注目される内容である。

 


 

この選挙結果が明らかにしたのは、第一に与党に改憲の発議を可能にする三分の二の議席を与えなかったことである。このことがどれほど大きな意義を持つかは、安倍首相も加盟する「日本会議議員連盟(議連)」の動きを見ればはっきりする。

六月二○日、議連は「令和元年度総会」を開き、衆参両議院の憲法審査会の審議を促進し、「早期の国会発議を目指す」と決議した。すでに議連は、「早期の国会(改憲)発議」を実現するため、「(憲法)改正原案作成に向けて超党派で合意できる環境づくりをすすめる」とし、自民党と同連盟が連携して小選挙区単位の「憲法改正推進本部」の設置を進め、草の根の改憲論議を盛り上げる運動を展開してきた。今回の総会決議は、これを一段とレベルアップし、「(改憲)国民投票」で過半数の獲得を目指そうとしたものである。

しかし今回の選挙までに野党は、世論の「改憲反対」が根強いことを背景とし、安倍九条改憲に対し、「いまの中心課題は憲法を変えることではなく、憲法の素晴らしい理念、条項を生かした政治に改革していくこと」と批判し、世論を代弁した。

さらに第二として、全国三二の一人区で野党が一〇議席を獲得したことである。これまで自民党は、これら東北・北陸・中部を中心とする一人区で圧倒的に強く、野党は敗北を重ねてきた。約三分の一の議席を獲得したのは、やっと前回の参院選においてであった。今回野党がこの勢力を維持したのは、健闘と評すべきであろう。

今回の参院選の結果(カッコは今回の改選数)は、与党側が自民党一一三(五七)、公明党二八(一四)、日本維新の会一六(一〇)、無所属与党系三、野党側は立憲民主党三二(一七)、国民民主党二一(六)、日本共産党一三(七)、社会民主党二(一)、「れいわ新選組二(○)、野党系無所属一四であり、与党系が一六〇議席、野党系は八四議席という配置となった(欠員一)。

 


 

今回の野党の健闘は、国会審議の異常事態を打開する契機になると期待される。

先の通常国会で、年金問題が一大争点になった。金融庁の報告書が「年金だけでは二〇〇〇万円不足」としたことがそれに火をつけた。しかし安倍首相は参院選前の国会でこれを議論することを避けようと衆参両院の予算委員会を開くことを止め、野党の再三の申し入れに耳を貸さず、選挙前には衆院では三月一日、参院では三月二四日以後一度も開かなかった。金融庁の報告書については、麻生太郎副総理兼金融担当相がこれをなかったことにし、国会での議論を封じたのである。自民党の国民生活軽視、国民世論無視はここに極まったというべきであろう。

このような自民党と与党の暴挙を止めさせるには、今や論戦だけでは不十分な時期にきているのではなかろうか。こうなれば一大国民運動で反撃するほかはないであろう。その規模は、今では死語となった「安保規模」の激しさが必要なのではなかろうか。一九六○年の「安保反対闘争」は、まさに国民運動の名にふさわしい激しさと広がりをもった運動であった。「日米安保条約」はこのような国民運動を圧殺して成立し、のさばってきたのである。

この安保体制は、現在ではアメリカのトランプ大統領が「日本にはさらに五倍の軍事費負担を要求すべきである」というまでに膨れ上がり、それがどれほど恐ろしい内政干渉の体制であるかを明るみに出した。日本の防衛予算は五兆円をはるかに超える規模に膨れあがり、その多くがアメリカ製の飛行機を中心とする兵器の買い上げに費やされてきた。

このような理不尽な体制に終止符を打つには、古典的な「安保規模」では不十分で、何としてもこれを上回る必要があると思われるのである。

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