編集後記

新船海三郎

しんふね かいさぶろう | 



▼アフガニスタンで医療、水利事業を進めていた中村哲さんが銃撃され死去した。まことに残念というほかない。哲さんの事績は多く語られているので、聞きかじった半解半知をここでいうつもりはないが、母方の伯父、作家火野葦平とのちょっとした関係を紹介しておきたい。葦平が早稲田大学で左翼運動に関わり、帰郷して父親の玉井組(沖仲仕をまとめ港湾荷受を請負った)を手伝い、労働組合をつくろうとしたことは知られている。そのとき、葦平といっしょに動いたのが哲さんの父・勉さん。同じ早稲田の先輩で、左翼運動も勉さんが先輩。肝胆相照らした二人は、勉さんがやがて葦平の妹を妻にしたことでより親近する。2代目玉井組を継いだ葦平のもとで勉さんは中村組を作って支えた。戦後、「戦争作家」と公職追放された傷心の葦平を励ましたのが勉さんなら、事業に失敗した勉さんに旅館業をすすめたのが葦平。酒の飲めない葦平に対して勉さんは酒豪。差し押さえの紙がそこら中に貼られていても、夫妻で愉快に飲んでいたらしい。哲さんの豪胆、心ばえ、平和の希求には、そうした両親や葦平らの力が何らか与っていたのだろう。それだけに、である。

▼〝サクラチル〟とはずいぶん昔の、大学受験不合格の電文。イチョウチルとか、ツガルカイキョウナミタカシなどもあったらしいが、合格電報は各大学ならではがもっぱらで、東大ならアカモンヒラク(赤門開く)、静岡大学ならフジサンチョウセイフクス(富士山頂征服す)。さて、例の「桜」である。税金を自分の財布代わりにして、お友達や選挙区の有力者を招いて飲み食いさせ、記念写真に収まる。これ、自分のカネでやれば、カニやメロンを贈ってクビになった大臣がいたように買収、公選法違反になる。税金ならいい、なんてわけがない。招待客には〝反社〟もいれば詐欺商法の親玉もいたらしい。もともと功労者を慰労するのが目的の「桜を見る会」だから、招待名簿を出せと野党が迫ると、そそくさとシュレッダーに。総理・官邸枠を糺すと、廃棄したので分からない。子どもだましにもならない、嘘に嘘を塗りたくる、いいようもない無様。こちらが恥ずかしくなってくる。ある調査によると、〝答えを差し控える〟という類いの答弁がこのところ急増らしいが、東京五輪に総理・官邸枠はないかと問われると、控えるどころか〝答えは困難〟ときた。JOCは「ない」というのに、さては「忖度」し過ぎたか。シャレにもならない。永田町のサクラ、本物の桜吹雪の邪魔にならぬよう、早々に散ってもらおう。

▼17頁で告知したように、本誌は50号で停刊する。受け継いで発行するより若い世代が出てくれば再刊は可能とはいえ、現在のところその見通しはない。憲法を変えるにはまず教育基本法からという第1次安倍政権の右旋回に、拱手傍観しておられないところからの出発。ある程度はやったという思いと、もっとできるのではないかという思いの間で揺れている。ともあれ、長いあいだのご支援、ご協力、感謝のほかない。残り3号、私たちも力を尽くすが、読者諸氏にはぜひ原稿をお寄せいただきたい。また、消費税増などによる諸物価とくに紙代高騰は大きな打撃、カンパもお願いする次第。       (新船)

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