編集後記

新船海三郎

しんふね かいさぶろう | 



▼「これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ」――森友問題で自殺した近畿財務局職員・赤木俊夫さんの公文書改竄をめぐる手書きメモの一言である。遺書とともに妻が意を決して公表し、国と佐川宣寿元財務省理財局長を訴えた。赤木さんは、「ぼくの契約相手は国民です」と常々いっていたというから、耐えきれなかったその心中を改めて思う。だから、そこに「私の名はない」と、国の大事を自己保身に置き換えて再調査を拒否して恥じないこの国の総理の姿がなんともやりきれないのだ。国とか行政とか、あるいは法とか、そんなものどうだっていいといわんばかりのごう慢さ、スクープ記事が話題の渦中に銀座に食事に行き、ついでに満開のサクラの下で記念写真を撮る無神経。見聞きするこちらが汚されている感じがする。再調査を拒否する総理や財務大臣の対応に堪らず、いまネット上で第三者機関による再調査を求める署名が始まっている。これは、赤木夫人一人のたたかいではない。この国の民主主義の存亡をかけた、戦後史最大といってもいいほどのみんなのたたかいにしなくてはいけない問題である。

▼それにしても新型コロナウイルスである。巻頭言と重なるが、何かとんでもなく恐ろしいものを見せられている気がしている。病勢もあるが、例えば首相が「要請」すると、三日後にはみごとなまでに一斉休校になる、号令一下の対応。外出「自粛」がいわれるとパタリと止まる人の動き。罹病者を「ばい菌」扱いして、陰性になっても出勤拒否する会社。校則は白マスクだからと色つきマスクを外せと命じる教師。朝鮮学校(幼稚園部)にマスク配布を拒んだ市。撤回して配布したら、「マスクが欲しければ国に帰れ」「日本人と同じ権利と保護があると思っているのか」の電話やメール。クルーズ船のウイルス感染者を医療センターが受け容れると、「外国人に税金を使うな」「中国・韓国人を追い返せ」という抗議電話が殺到した自治体もある。国の内への統制と異分子・異論排除が同時進行しているような、何とはない嫌あな空気である。こんなときは、国のトップが断固として排外的気分、行動の一掃を訴えなければと思うが、彼に信はない。ジャーナリストの安田浩一が、取り返しのつかないことが起きる前に、差別を断じて許容しないという強い意志を固めるべきだ、国も自治体も、そして私たちも、と述べているが(「東京」3月27日)、まったく同感である。

▼それにしても、自粛である。大小さまざまのコンサート、美術展……が中止に追い込まれている。東京上野の?外荘も閉館という。文化庁は長官名でメッセージを公開、「私が先頭に立って、これまで以上に文化芸術への支援を行っていきたい」というものの、具体的な補償については一言もなし。イギリスでは1億6000ポンド(約212億円)の緊急資金の提供を表明し、ドイツは「私たちは誰も失望させない」と、最大500億ユーロ(約6兆円)を緊急財政支援助成金として提供するという。新コロナは命としての医学・医療の問題とともに、人はどう生きていくかの文化の問題でもあると痛感する。

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