編集後記

新船海三郎

しんふね かいさぶろう | 



▼かつての参謀本部の作戦指揮もかくのようであったか。マスク2枚がさしずめ竹ヤリなら、兵站・食糧の現地調達は補償なしの休業・自粛要請か。足らぬ足らぬは工夫が足らぬと雨ガッパを防護服に代用させ、そしてついに、負けても勝ってる「日本モデル」……。政権に負けじと「国民」と翼賛メディアも威を借りて頑張る。感染者を摘発して村八分にし、自粛せぬパチンコ店にはこれ見よがしの非難。まるで〝アカ〟のレッテル貼り、非国民さがし。マスクも10万円も、給付は「日本国民」が対象と言い募るレイシズムも顔を出す。そんなことを考えていたら、コロナ対策の専門家会議が突如、廃止。専門家会議の座長、副座長が別の会場で記者会見している同じ時間に、コロナ対策の担当大臣が発表した。どうやら、事態を懸念する専門家の率直な発言が頭にきたらしい。かつても参謀本部に異見をいって前線の指揮を外されたり、激戦地へ飛ばされた将校がいたが、使えるだけ使って、気に入らなくなるとポイ、とはひどい話だ。75年経っても変わらぬ体質に呆れるより恐怖すら覚える。

▼河合前法務大臣と妻の案里参院議員が逮捕された。昨年秋の参院選挙のさいに選挙スタッフに法廷限度額以上の金を渡したり、県市町議員らに金を渡して票のとりまとめを依頼したという。話題になっているのは自民党本部から1億5千万円もらい(もう一人の自民候補にはその10分の1)、それを使ったのではないかということだが、どうやら本部から出たうち1億2千万円は政党交付金が原資らしい。もらった議員の何人かは「安倍さんから」といわれたらしいが、とんでもない。国民の税金からだ。もっとも、税金も自分の財布の金のように使い、花見に誘ったり、大学を作ったり、中抜けさせて儲けさせたりする彼の御仁だから、そう言われると満更ではなかったのかもしれないが、誰かが言っていたように、〝金で動かそうとする者は自分も金で動く輩〟。同じ臭いを嗅ぎつけて、類が友を呼んだのだろう。それにしても、金で票を買い漁っていたのに、法務大臣の声がかかったとき何も思わなかったのだろうか。傲慢なことだ。

▼オックスフォード大学が昨年9月、「シュワルツマン・人文科学研究センター」を設立すると発表したことに羨望の眼差しを送った日本の研究者は多い。個人の寄付による研究センターとしては同大学最大とのことだが、文学、歴史、哲学、倫理、音楽、芸術など人文科学分野の幅広い領域の研究を行っていくとし、なかでも、人工知能(AI)における倫理研究に注力していくとしている。シュワルツマンは「AIの科学技術としての研究は進んでいるが、AIの導入によって失業者も増加してきて、社会が崩壊していくかもしれない。誰もそのような社会は望んでいない。AIにおける倫理の研究は我々の時代におけるもっとも重要な問題の一つだ。オックスフォード大学は約千年にわたって、人文科学の研究を行い、西洋文明の知識の中核となってきた。その深い洞察力と研究原理を現代のダイナミックな社会にも適応してく必要がある」と語ったという。ことはAI に総称される、そしてこの間経験している新型コロナに見られる、人類的危機へ人間としてどう向き合うか、その知のあり方を問おうというのだ。文系学部廃止を考えるところとは歴史を見る射程も思慮も違うと痛感するが、世界にはそういう国や大学、それを申し出る経済人のいることになぜかホッとする。次号は最終号。編集委員が総出で執筆する。期待してもらいたい。 (新船)

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