編集後記

新船海三郎

しんふね かいさぶろう | 



▼最終号である。読者諸氏には長年のご愛読、心からお礼を申しあげる。拙く、心許ない編集、見のがした誤記誤植の数々……、よくぞご辛抱くだされたと感謝以外ない。ふり返れば、発行を思い立ったのは第1次安倍政権の教育基本法を変え、次は憲法と言いだしたとき。拱手傍観しておられないと本の泉社前社長・比留川洋氏(故人)と相談したのが始まり。友人知己に声をかけ強力メンバーで編集委員会を構成した。故人の辻井喬、上田耕一郎氏などのアドバイスも受けた。「一票革命」民主党政権の誕生にはじまり、3・11東日本大震災、原発事故、自民党の政権奪取、7年8ヶ月の安倍自公政権、集団的自衛権行使容認など恣意的憲法解釈、武器輸出3原則撤廃、防衛省発足と戦争志向・軍事費の膨張、お友達優遇、公文書隠蔽・改ざん、目に余る権力腐敗、トランプ米政権と世界の激動、気候変動と度重なる風水害の甚大な被害、沖縄・辺野古新基地強行、「在日」朝鮮人差別、そしてコロナ禍……十分扱えず取り残した問題も多いが、善戦健闘の12年半だったのではないかと総目次をながめながら思う。

 

▼「康平、とにかく本を読むんだ。小説、評論、詩、名論文、歴史書、数学、科学、建築学、生物学、地政学に関する書物。なんでもいいんだ。雑学を詰め込むんだ。活字だらけの書物を読め。優れた書物を読みつづける以外に人間が成長する方法はないぞ」――近刊の宮本輝『灯台からの響き』(集英社)にあった。康平はラーメン店主。幼馴染みの急死を聞き、彼がそう語ったことを思い出す。「お前と話してるとおもしろくなくて、腹がたってくるんだ。康平、お前の話がなぜおもしろくないか教えてやろうか。お前が知ってるのはラーメンのことだけなんだ。じゃあ、職人と呼ばれる職業の人間はみんなおもしろくないのか。そうじゃないよ。牧野康平という人間がおもしろくないんだ。それはなぁ、お前に『雑学』ってものが身についてないからさ。大学ってところはなぁ、専門の学問を学ぶよりも、もっと重要なことが身につくところなんだ。諧謔、ユーモア、議論用語、アルゴリズム……。それらを簡単に言うと『雑学』だ。女の話から、なぜか進化論へと話は移って、ゲノムの話になり、昆虫の生態へと移り、いつのまにかカルタゴの滅亡とローマ帝国の政治っていう歴史学に変わってる。どれも愚にもつかない幼稚な話だよ。でも、それによって各人が読んだり聞いたりして得た『雑学』の程度の差が露呈するんだ。康平、お前にはその雑学がまったくないんだ」。「雑学」とはつまりは人間の幅、厚み。本を読まず、大学が言われるようでなくなり、人間がどんどん小さく薄っぺらになっていく世上への苦言でもあろう。同感しきりだが苦虫は?むまい。人生最後まで、読んで語って書いて、意気軒昂に抵抗していきたい。

 

▼さて、菅政権である。マスメディアの持ち上げ戦略もあって、思いもかけない高支持率の船出。安倍政権の継承を言う以外に何もない新政権だが、モリ・カケ・サクラに河井などの爆弾も抱えた自覚があるのかないのか、官僚筋への睨め回しは相当のようだ。だが、裏で手を回すのは得意でも表に回ってはどうなのか。信長の「恐怖」に急襲で応えた明智の例もあるぞ。ともあれ日本政治はどこへ向かうのか、11月7日(土)午後、渡辺治氏の講演を企画している。原田敬一氏と合わせての50号記念。本誌18頁掲載の要領でお申し込みを。諸氏の健康と健闘をお祈りする。ありがとうございました。 (新船)

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