【『季論21』フォーラム】「日本会議」はどこまで来たか

歴史をたどり、思想と行動を分析する

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青木 理さん(ジャーナリスト)島薗 進(宗教学者)宮地正人(日本近現代史研究者)


〈パネリスト〉

青木 理さん(ジャーナリスト)

島薗 進さん(宗教学者)

宮地正人さん(日本近現代史研究者)

 

宮地 「日本会議」についてこの間、いくつもの著書が出版されています。青木さんの『日本会議の正体』(平凡社新書)を拝読しましたが、よく調べられた、いい研究書だと思いました。「日本会議」という組織がどのように形成されてきたのか、同時代史研究の基本である、①当事者への丹念なねばり強い取材、②その時点その時点の客観的な事実と発言・発想を彼ら自身の言葉で確認しています。ですので、最初は青木さんに、調べる動機やぶつかった問題、掘りあてた生長の家と神社本庁の1960年代~80年代の概略を話していただき、討論をすすめていきたいと思います。

 

報道のはざまの「日本会議」

 

青木 取材・執筆の動機は私の本のプロローグでも書きましたが、「日本会議」については新聞、テレビ、メジャー週刊誌といった国内の主要メディアのほとんどがきちんと取りあげてきませんでした。ところが第二次安倍政権(2012年12月)、第三次政権(2014年12月)と進むにつれ、閣僚に占める「日本会議国会議員懇談会」のメンバーの比重が大きくなり、欧米のメディアが先に注目する形で「日本最大の極右組織」であるとか「安倍政権は『日本会議』に牛耳られている」などとと報じ、その後になって国内メディアもようやく取りあげるようになってきたわけです。

 

こういうことは過去にもあって、田中角栄の金脈問題とか皇太子の結婚問題などでも、外国メディアが大騒ぎするのを受けて国内メディアも重い腰をあげる、といったことがありました。今回の場合、メディアに強圧的な安倍政権の顔色をうかがった面もあったでしょうし、既存メディア組織の取材システムのはざまに落ちてしまった面もあったように思います。番記者方式で政局などを追い回す政治部は、その背景組織などにまで取材がなかなか及ばない。本来は社会部が追う対象なのでしょうが、最近の社会部は事件事故の取材などに忙しくて手が回らない。

 

もう一つ、「日本会議」などは相手にすべき組織じゃないという感覚もあったのかもしれません。ヘイトスピーチをがなりたてる「在特会」などの時にも見られた現象ですが、メディアが取り上げることで逆に宣伝になってしまう。組織をむしろ大きく見せてしまう。そんな意識があったのかもしれないと思います。

 

余談ですが、私の本の前後には「日本会議」関連の書籍が何冊か出されて、まるで「日本会議」本ブームのような状況になりました。ある新聞社の記者からそれについての取材を受けたのですが、どうも私たちの本のせいで「日本会議」への加入者希望者が増えてしまっているらしい(笑い)とも聞きました。

 

しかし、いずれにしてもこれだけ海外メディアが注目していて、政権にそれなりの影響力を持っていると指摘されているのなら、足下のメディアがきちんと取材して真相を語らないのは健全ではありません。私もメディアを舞台に原稿を発表している取材記者であり、果たして「日本会議」なるものがどういう組織であって、どれほどの影響力を持っているのかは、きちんと伝えるべきだと考えたわけです。

 

ただ、「日本会議」にものすごい力があるように考えるのは少し違うと感じています。私の取材時点での「日本会議」の会員は3万8000人、国会議員懇談会に名前を連ねているのが281人、地方議員は1700人程度となっていて、決して小さな組織ではありませんが、ものすごい巨大組織というわけでもない。彼ら自身に大きな資金力や動員力があるわけでもない。謀略史観的に過大視すると本質を見誤ることになりかねないと思います。

 

彼らは、表向きは著名な学者や文化人、財界人などを会長や役員にあて、草の根市民運動のように活動を進めているといわれています。たしかにそういう一面はありますが、本質的には「宗教右派の統一戦線」と見るのが適切なように思います。組織の中枢にいるのは事務総長の椛島(かなしま)有三氏や政策委員のメンバーですが、彼らの大半はもともと新興宗教「生長の家」を信仰し、1960年代末から70年代初めにかけて、全共闘などの左翼的潮流に右派の学生組織をつくって対抗した元活動家たちです。その後もしつこく活動をつづけ、半世紀近くの時を経て「日本会議」の実務的な中枢を担うにいたっているわけです。

 

たとえば政策委員のメンバーには百地章日大教授がいます。彼は集団的自衛権について大半の憲法学者が違憲だと指摘するなか、菅官房長官が賛成の学者も3人いるとあげたうちの一人です。安倍首相のブレーンといわれる日本政策研究センターの伊藤哲夫氏も、高橋史朗明星大教授も政策委員で、彼らはいずれも元「生長の家」の活動家です。

 

これは明確にしておかなければならないのですが、現在の生長の家は政治から離れ、「日本会議」とも一切手を切っています。創始者の谷口雅春は極端な国家主義、戦前復古的な主張を繰り返してきましたが、2代目の谷口清超、3代目の谷口雅宣の代になって方向性を変え、近年は環境・エコロジー分野などに重きを置く教団に変貌しています。つまり現在の「日本会議」の中枢を担っている人びとは、創始者の谷口雅春を信奉し、右派活動をつづけてきたわけです。

 

これを動員面、資金面などで支えているのが神社本庁です。日本には約8万社の神社があるといわれていますが、その大半7万9000社以上が加盟しています。地方の過疎化などにともなって金銭的に厳しい神社もありますが、一方で明治神宮などのように桁外れの集金力を誇っている神社もあり、役員を送り出すような形で「日本会議」の運営に深くかかわっています。「日本会議」は現在、憲法改正1000万人署名に取り組んでいますが、正月には初詣の参詣人を相手に境内で集める神社まで現れました。これは神社本庁の指示によるものです。その他、右派的な新興宗教団体、たとえば新生佛教教団とか霊友会、黒住教などがいろいろな形で側面から「日本会議」の活動を支えています。

 

宮地 島薗さん、神社本庁ですが、戦争に負けて国家神道も終わったと思っていたのですが、なぜこんな形で生き残り、力を持ってきたのでしょうか。

 

後押しする神社本庁

 

島薗 その前に、先ほど青木さんから「日本会議」がはざまに置かれてきたというお話がありました。じつは、宗教も日本のメディアは取りあげないのです。宗教は日本社会の動きと大きくかかわっているのですが、ジャーナリズムからは盲点になっている。新宗教はもはや日本に根を張っていますが、世の中からは依然として変な団体だと思われている。なぜ彼らは日本社会に根を張るようになっているのか、そこを理解しないと「日本会議」も宗教、例えばオウム真理教なども分からないことになります。

 

青木さんのこんどの著書は基礎情報をよく調べられていて、素晴らしいと思います。右派系の新宗教はいろいろありますが、全体としてみると、右派系は多数ではありません。創価学会は長らく中道からむしろ左に近かったのですが、ここに来てぐっと右へ舵を切った観があります。改憲勢力が国会の3分の2といわれて公明党も入っていますが、本来はそうではなかったはずだと多くの人は思っています。立正佼成会はメンタリティ的には保守といっていいかと思いますが、「日本会議」的なものとは距離を置いています。立正佼成会がリーダーシップをとっている新宗連(新日本宗教団体連合会)にはPL教団や善隣教などたくさん入っていますが、どちらかといえば平和志向といえます。もちろん、解脱会とか崇教真光など、「日本会議」系も入っています。

 

自民党から見ると、こういう宗教団体は得がたい票田として重要なわけです。自民党はもともと都市部で減らしてきましたし、地方も、先の参院選での東北などを見ても、ここでも地盤が崩れてきています。ですから、宗教団体の集まりに顔を出すのは非常に重要なことで、それと「日本会議」とのつながりは関係があるように考えられます。

 

神社本庁についてですが、私はこういう右派の思想の流れを戦後一貫してつらぬいてきたのが神社本庁だと思っています。戦前の国家神道は、1945年12月にGHQが「神道指令」を日本政府に命じ、国家から宗教的要素を完全に分離するという措置によって国家神道が解体されたことになっているわけですが、神社本庁はこれを目の敵にしています。神道は本来国家的なものであるはずが民間団体にされ、単なる宗教団体にされてしまった、これを元に戻す、というのが彼らの悲願で、占領下の時代からいろいろ修正を求めてきたわけです。

 

これと密接に結びついているのが、國學院大學や皇學館大学の神道学です。私は宗教学者として神道学の先生方とは親しくしていて、いろいろなやりとりをずっとしてきています。ここが神職の養成機関になっていて、右派的な教育が継続され、出身者が神道界の中核になっています。いわば右派幹部の供給源になっているといえます。生長の家の教祖の谷口雅春などは学問が好きだったので、弟子にも学問や論争が好きな人が多い。幸福の科学の大川隆法のお父さんもたしか生長の家と深く関わったと思います。

 

いま新宗教界で注目を浴びているのはワールドメイトで、みすず学苑という塾もやっています。オウム真理教などと同時期に創立されましたが、リーダーは深見東州という、親は世界救世教という人物で、禅や神道などを取り入れて、サークル型の個人参加で伸びてきています。神道国際学会を設立し、日本の宗教学者はほとんど入っていませんが、外国の日本宗教研究者を集めています。神社本庁とも支え合っているように思われます。

 

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