【巻頭言】 文在寅(韓国新政権)が向かう正義社会

李 修京

イ・スゥギョン | 歴史社会学、本誌編集委員



新自由主義とグローバル化が絡み合った激しい大国間抗争の展開から派生した排他的ポピュリズムの動きは、パリ・ロンドン・イランなどで発生したテロを理由に、難民や外国人移住民、マイノリティー層への倒錯した憎悪と排斥を高めながら多文化共生社会への陰りを落としている。

イギリスのハードブラックシートが懸念される中、人類が追求し続けている、共生への歩みや知性を伴う識見を重んじる政策よりも、目先の損得優先の発想で白人労働者層の危機意識を取り入れたポピュリズムで政権を取ったのがトランプ大統領である。その自国利益を優先する政策には、両大戦期の未曾有の犠牲や文明破壊の痛切な反省から、人類存続のために叡智を結集して作り出した「世界人権宣言」の平和願望と人道主義的国際協力など眼中にないかのような独善的動きが眼立つ。本人もドイツ移民の子孫であり、スロベニア出身の妻をもち、移民大国への移住民として成功をおさめて大統領に就いたわけだが、就任直後に行ったのは反移民政策であり、シリア難民には永久入国を禁止するという行政命令にまで署名をしている。CO2排出国世界2位として気候変動への協力を示した9か月前の批准を覆し、パリ協定からの離脱を公言し、かつまた軍需産業の活性化による軍事大国への加速化を目論んだ史上最大級の国防費増額を行い、無理な財政からの捻出を正当化するために世界各地の軍事的緊張を作り出している。

それは、自衛隊の軍隊化による交戦権確保や派兵、最先端兵力の武装による軍事大国化、軍需産業による経済活性化を意図とした改憲への執念を露わにしつつ、政策に異を唱えることを許さない国民総監視体制のために、「テロ対策」を建前に共謀罪の法案を強行に成立させようとする安倍政権の強引さとも通じ合うものがある。

トランプ大統領はさらに、強い自分の政治力と先端兵力を誇示するため、世紀の会談として期待された米中首脳会談の晩餐会の最中に、シリアへ59発のミサイル爆撃を行い、北朝鮮との外交で渋る中国を牽制するかたわら、北朝鮮への警告を発する強硬発言で存在感をアピールした。シリア攻撃によって支持率が高まったトランプ政権は、都合よく核ミサイル実験を行う北朝鮮に対する空母派遣など戦争威嚇を続け、朴政権への弾劾訴追で混沌としていた韓国にはサード(終末高高度防衛ミサイル)を配置した。

日本では首相夫婦のスキャンダルが浮上し、その問題のすり替えに北朝鮮の核実験による韓半島での戦争勃発間近だというメディアプレーが用いられ、隣国の戦禍を想定した渡韓注意や北朝鮮からの難民対策、避難訓練などが政府レベルで促され、アメリカの空母派遣に自衛隊の協力対応が行われ、一気に戦雲を漂わせる不安な雰囲気を醸し出し、過剰なまでにトランプの対北戦略に歩調を合わせたのである。しかし、これらの好戦的な流れに歯止めをかけるように、ドイツのメルケル首相の移民受け入れ政策を擁護するマクロン候補が、極右のルペンより圧倒的人気を得てフランス大統領に就き、総選挙でもマクロン率いる新党「共和国前進」が圧勝を見せた。

一方、東アジアでは韓国戦争後の軍事独裁政権によって行われてきた不正腐敗の社会構図の刷新を訴える市民集会が韓国全土で行われ、最終的に憲法裁判所により朴槿恵大統領が罷免とされ、国民の人気を得た文在寅政権が誕生した。その背景には、厳しかった軍事独裁政権の長期化で派生したあらゆる利権を牛耳ってきた世襲権力や既得権層の社会に対し、〝正直者が馬鹿をみる社会〟ではなく〝国民の主権が健全に機能する住みやすい正義社会の具現〟のため、これまで積もっていた弊害を総括すべく〝積弊清算〟を強く願う民意があった。

しかし、人権弁護士出身で正義社会の具現を掲げる文大統領への日本側の懸念は強く、日本には追従的動きさえ見せてきたこれまでの政権とは異なる文大統領に一種の不安や焦り、妬みなどが複雑に絡み、〝赤化〟〝親北〟〝韓国は反日の嵐〟などの表題で文大統領への批判やメディア攻撃が行われた。しかし、ここではっきり言えるのは、韓国は現在、自国の歴史との闘いの途上であり、自国の望ましい在り方に向けて出港しているのである。いわば〝非正常状態の社会を正常に変える〟作業中である。

このことを日本はわかっていない。あるいは分かろうとしないのか。

韓国は日本の支配も含めて外国勢力によって左右されてきた歴史がある。その中でも自分らの社会を自らの手で成長させてきた歴史があり、その過程で派生してきた弊害を清算し、これからは市民層から政権を見守りつつ、自分らの民主社会を育てていこうとする一心で文大統領を選んだ。何から何まで権力層に有利な仕組みを変え、韓国社会が長い間総括できなかった〝植民地支配への日和見主義〟問題を悩み、〝学縁〟〝血縁〟〝地縁〟〝学閥〟〝教育投資〟〝株投資〟〝不動産投資〟などに露呈された、既得権層と権力の癒着による弊害や矛盾をなくそうとする、そう、韓国社会は現在、先進的〝市民社会〟の構築に向かっている最中である。

筆者も幾度か韓国の?燭集会に参加した。100万人集会のウネリが去った後、あの大道路にゴミ一つ落ちてない光景に誇らしき民心の成長を見て衝撃と感動を覚えたことを、読者は理解できるだろうか。自主的に参加した人々の強い意志と責任感の発露には確かな変化を感じたものである。

文大統領はけっして〝反日〟ではない。強大国に囲まれ、植民地支配下で生まれた日和見主義的な親日派の権力層とその子孫は戦後、自分らの利権守りにあらゆる腐敗の限りを尽くしてきた。その隙間で呻きながら人々は働いても報われない社会に憤りを覚え、結局爆発したのである。

文在寅大統領の生き様は正義社会の具現で一貫し、多くの支持者に信頼されている。つまり、日本に対する気持ちは〝反戦・平和〟に基づく〝反植民地〟なのである。彼の政治的思想やこれまでの発言や閣僚の人選などを見ると、正義社会の実現への決心が強く感じ取れる。つまり、様々な矛盾を孕んできた植民地時代の韓国社会の記憶と、彼自身、韓国戦争の避難民として避難民収容所で生まれただけに、残る戦争の記憶を根源的な動力として、外国に左右され既存の権力者によって牛耳られてきたのを今こそ韓国民自身が立て直す時期だと思って、最善を尽くしている模様である。

6月11日現在、韓国社会世論研究所が19歳以上の男女1028名の世論調査を行った結果、保守も含む国民90%が文大統領の国政運営がうまいという高評価を出している。大統領就任まもなく、彼は仁川国際空港の84%を占める非常勤(多文化圏出身移住民含む)を常勤雇用することを宣言し、消防署や金属工場の下請け会社を訪問し、彼らの雇用を常勤にすることを約束し、閣僚にも女性や破格的人材を取り入れ、既得権層の天下りをなくし、検察改革に力を入れている。韓国の変革はアジアの成長ばかりではなく、地球市民として共に生きられる多文化共生化の実現に向けて〝対話と平和〟を構築する一つのモデルになると期待したい。

他者排除の苛め問題が多発する索漠とした背景には、人間本来の助け合いよりアメリカ型の実力中心主義への強要が存在する。トランプ主義的軍事大国を目指すことはその分、敵を増やすことになる。法治国家では国民を守ることに存在意義がある。賢い指導者とは強さより安定を図る政治を行う。日本は東アジアの国々との協調で平和的対話を導くことにイニシアチブを取り、韓半島と中国・台湾に信頼される架け橋役を行うことで先進民主社会を表明することがこの先、進めるべき〝美しい在り方〟である。この役割が人類の普遍的価値だと韓国の文政権は気づいて動き始めている。安倍首相はどこに向かっているのだろうか。

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