減災は、自然、人、歴史文化とつながって

室崎益輝さん(兵庫県立大学減災復興政策研究科長)に聞く

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防災の科学技術は世界トップだが

 

――災害列島と呼ばれ、それもこのところ〝超〟といっていいくらい災害に見舞われているのですが、対策の現状はどうなのでしょうか。よくやっているのか、それともまだまだ立ち遅れているのか。

 

室崎 たぶん、両面あると思うんです。おっしゃったように日本は災害大国です。例えば地震でいっても、マグニチュード6以上の地震の発生確率は、面積が世界の0・2%ぐらいなのに大きな地震の20%は日本で起きています。火山の噴火も多く、そこに台風だとか暴風、豪雨、豪雪、猛暑と、ありとあらゆる災害が大昔から起きています。

大昔からということは、それに対する備えも考えてきたわけで、防災に熱心な民族でもあるんです。防災の科学技術の面でみると、例えば津波の観測システムとか、建物火災を防ぐ技術などは世界のトップクラスであることは事実なんです。

だけど、ここから先が重要で、じゃあ、本当に大きな災害による被害を軽減するうえで、そういう科学技術がじゅうぶん応えているかというとまだまだで、科学が追いついていない。そのうえ行政になるといろいろなファクターが入って、科学が進んでいてもそれを生かさない行政になっている場合が少なくない。行政のレベルでは、現実には災害の進化についていけていない、ニーズに追いついていない。まだまだ山のように課題があるというのが現状ですね。

 

――今朝のテレビで鞍馬寺の台風21号による被害を映していましたが、ずいぶんひどいですね。

 

室崎 京都もひどいですし、大阪北部地震で被害にあった大阪の茨木や高槻でも大きな被害がでています。

大阪北部地震では屋根の棟瓦が飛んでいるんです。家そのものにはあまり被害が出ない地震で、ブロック塀や煙突が倒れたとか、家の中は家具が倒れるというものでした。とにかく瓦が飛んだ家がとても多くて、ブルーシートをつけないといけないんですが、屋根に上れるボランティアが少ない。どうにかこうにかボランティアの協力で苦労して張ったシートが、その後の台風21号で飛ばされて、再び大変なことになっています。

最終的には、瓦屋根を直さないといけないのですが、瓦職人が見つからないということで全然前へ進まないんです。職人が少なくなっていることは事実ですが、言い訳のように「瓦職人が見つからないので半年から1年待ってください」ということで済んでしまう世界が日本にはあるんですね。雨漏りで住めなくなり、高齢者夫婦がマンションを借りるようになると、家がどんどん朽ちていく。被災者が困っていることに対して、的確にスピーディーに応えるという、行政の対応システムは悪くなっています。

避難所も災害救助法では「原則1週間」と書かれているんです。避難所は「雑魚寝状態でも1週間だから我慢してください」というかたちで基準ができているのに、いまは1週間どころか1ヵ月も2ヵ月も、場合によっては半年以上も避難所生活をしています。

かつては、災害が起きた次の日から仮設住宅の建設が始まっていました。それで1週間が10日に延びることがあっても、仮設住宅に移ってもらえるようにするという、一つの使命感が行政にはありましたけれども、いまは避難所生活が2ヵ月になろうと3ヵ月になろうと、仕方がないと思っている。仮設もそもそも最大2年なのに、東北を見ると7年になっている。それを、積極的に解決しようという動きにはならない。しわ寄せを被災者が受けている。そういう意味では、被災者対応のソフトな仕組みというのはむしろ悪くなっていっているといえます。

 

「公費解体」が推奨されるウラで

 

――復興の遅れの原因は何ですか。

 

室崎 それもなかなか難しい。行政は、東日本大震災の住宅再建の遅れを、職人がいないことを理由にするんです。阪神大震災のときは、バブル景気が破綻して企業が縮小に入ったときでした。建設関係の職人はいるのに仕事がないという状態だったので、ワーッとみんな復興に動いたわけです。

東日本大震災になると、人手がないので進みませんという理由です。半分は正しいかもしれませんけれど、それで仕方がないという論理がまかり通るんですね。

さらに、復旧・復興のシステムが時代に合ったものになっていないことです。戦災から復興していく時代にはある程度合ったシステムだったけど、それをあまり変えることなく引き継いできているわけです。

自力再建というか、被災者自身が自分で再建するようにしてやればどんどん進むのに、むしろそうではなくて、行政がちゃんと住宅をつくるので待てということになっている。行政につくる能力がなければ、いつまでも待たないといけない。住宅再建のシステムが被災者なり時代のニーズに合っていないのですね。

そういうことは山のようにあって、例えば、住宅被害について、全壊とか大規模半壊、半壊などの認定をして、それで解体をしたり、仮設に入居したりするわけですが、いま公費解体がものすごくはやっています。国とか自治体が解体費の面倒を見るというのですが、とても良いように思われる。でも、解体してきれいに更地になるけれども、建てるお金は自分で出しなさい、となっている。建設費が要る。

私は、解体よりは修理をするべきだと考えています。修理をすれば安いお金でできるし、すぐに元の家に住めるようになるのに、解体という流れが出て、半壊でも解体費が出ますから、場合によっては1000万円かかるものもありますが、それは出しますという。修理は大きなものでも50万です。だから、公費解体に流れていくけれども業者がいないこともあって、順番待ちになり、遅くなり、コスト的にもかなり無駄を生んでいく。公費解体というのは一見、行政が一生懸命やっているように見えるけど、むしろそれはとても復興の足を引っ張っていることになるんです。

 

――建てる資金がないと元のところへ住めない人も出てくるわけですね。

 

室崎 いっぱい出てきます。解体してお金がない人は自分で建てられないので、公営住宅を待つんですけど、数が少なくて入れない。それで、あきらめて賃貸アパートに入る。そういう例が多いですね。公費解体は、被災者にとってありがた迷惑というか、問題の多いやり方です。

 

――全部更にして、新しいものを造るということですか。

 

室崎 そういう方針なんです。建設業者に儲けさせるためじゃないかとさえ思ってしまいます。建設業界は、職人が足りないこともあって、一気にではなく5年から10年かけて、大きな仕事をしようとするでしょう。その分だけ復興が遅れるけれど、10年分の収入源は確保されることになります。

 

被災者の苦しみは時間積分

 

――2020年の東京オリンピック・パラリンピックもありますね。

 

室崎 ただでさえ職人さんが減っているのに、東京で多く取ってしまっています。東日本大震災を考えると、招致してよかったのか疑問ですね。

1666年のロンドン大火のときに、イギリス政府は、イギリスじゅうの建設活動を全部禁止し、ロンドンでだけ認めます。そうすると、すべての職人、建設資材がロンドンに集まり、大火からの復興が一気に進みました。

だけど東日本大震災のあと日本政府が最初にやったことは、「日本の経済が良くなることが東北の復興を早めることだ」といって全国にお金をばらまくことでした。沖縄でも復興事業をやりました。そうすると、職人が全国に散らばるので、東北に入ってくる職人がむしろ減ってしまった。一見、日本の経済にとって良いように見えますけど、被災地の復興からすると、必ずしも良くない。資源を被災地に集中するという復旧・復興の対策の原理・原則からいうと、はずれたことをどんどんやっている。

被災者の苦しみの量は、〈一日一日の苦しみ〉×〈継続時間〉で、時間積分なんですよ。復興の時間が長くなればなるほど、苦しみは積分されていくので、苦しみの量というのは昔よりも非常に大きくなっているんです。その典型的な現れが震災関連死の増加です。

阪神のときにも震災関連死は多かったんですけれど、死者全体の15%ぐらいです。熊本地震は直接死が50人で、震災関連死がおおよそ200人。250人の死者の80%になっています。震災関連死は、直後の対応がよければ起きなかった犠牲です。それがどんどん増えているということは、それだけ見ても、災害対応は後退している、昔より悪くなったと言わざるを得ないですね。

 

――日本の場合、災害は起きてから対応するという考え方がずうっと……。

 

室崎 日本だけではないのかもしれませんが、とくに日本は火事場の馬鹿力というような世界があって、いざとなったときにはすごい力を発揮するんです。戦争の空襲もそうだし、市街地の大火もバケツリレーで防ぐということが、日本の防災対策を象徴しています。家が壊れたら災害救助隊や医療チームを送り込んで助けるという発想が強い。事前に家が壊れないようにするとか、火事が起きないようにするとか、そういうことに対してはあまり予算をつけない。

防災科学は世界のトップランナーといいながら、国は研究費をほとんど出していない。次の首都直下地震が起きると国の被害想定だけでも建物の焼失が40万棟、倒壊と合わせると60万棟を超え、倒壊と火災による死者が2万人以上出るといわれています。火災で1万6000人も死ぬというのは大変なことですから、リスクを下げるために、もっと研究を進めないといけない。最大の原因は通電火災、直後に自動回復をして火花が飛ぶことによる火事です。いまはやむを得ず感震ブレーカーの普及で通電火災を防ごうとしていますが、それもいろんな問題がありますので、それだけでは市街地大火は防ぎきれない。ですから、市街地大火を防ぐ研究プロジェクトにもっとお金を投資する。1年間に1億ぐらい出しても安いと思いますが、そういう研究投資はしないのです。

耐震補強も、いま話題になっている免震構造なども日本の最先端科学が力を入れればもっとすばらしいものができるんですけれど、必ずしもそういう研究が十分に行われていない。だから不良品が出てしまう。ごまかしが平気で行われる。

防災に関わる科学技術ももっと強力に進めないといけません。まさに世界のパイオニアになって、安全技術を開発して世界に貢献するという役割が日本にはあるはずです。しかし、そうした科学技術に対する投資が弱い。まだまだです。私は防災の専門から見ているから特にそうなんですけれども、研究のレベルも、実際に災害が起きたときの対応もレベルが低い。課題が山のようにあり、なおかつ、それをこなしきれていないということでは、一番最初のご質問に戻りますが、まだまだ不十分なところが多い。ある部分は、むしろ後退しています。

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